人の善意を無下にしたくないんだけど

ある日、大好きなアーティストのライブに1人で行ったときのこと。

私はいつもギリギリに滑り込む。

なぜなら、人見知りだから。

ライブは社交するわけじゃないけど、知らない人たちと近くで、いつ始まるかわからないそわそわした時間を過ごすのが苦手。

やたらときょろきょろしてる人の視線を感じるのも苦手。

開始時間すぐに始まるわけじゃないし、ギリギリ入場でも人には迷惑かけてないはず。

しかし、この日の会場は小さなライブハウスだった。

開始予定3分前にドアを開けると、観客席は小さい丸椅子に詰めて座り、ぎゅうぎゅうに密集するスタイルだった。

すでに9割方埋まっている。

あいにくというか、本来は喜ばしいのだが、私の席番号は前方3列目にあった。

明確な通路もなく、人を掻き分けて辿りつかないといけない

これじゃあ、ギリギリに来た方が気を遣うし目立ってしまうじゃないか。

人によけてもらわないといけない。

プレッシャーとしては些細なもののはずが、

しばらく私は立ちすくんでしまった

そんなとき、後列に座っている人が「もしかして、席ここですか?」と空いてる席を指差しながら声をかけてくれた。

私が後列の席を探しているように見えたのかもしれない。

焦っていた私はあっさり「違います」と言って前方の席へ向かった。

人を掻き分けてなんとか自分の席に着いたあと、先ほどの会話で頭の中がいっぱいになった。

……やってしまった。

さっきの、すごく素っ気なかったよね。

悪かったなぁ。やり直したい。

せめて、「そこじゃないみたいです、ありがとうございます」とか、言えればよかったのに。

リアルタイムの会話が苦手な私から咄嗟に出てくる言葉は、無骨で、時にはナイフのようになる。

後悔の念でライブ前半が全く味わえなくなってしまった。

このアーティストのライブのお客さんは、ほんわりと優しい人が多い。

順番を守ったり、道を譲ってくれたりする。

ドンっとぶつかってくる人に会ったことがない。

さっきだって、善意で声をかけてくれた。

だから、私もいい人でありたいし、大切にしたいのに。

ライブが終わったあとも、あの人に感謝の念を示せなかったことが、ずっと残っている。


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